カテゴリー
Webサイト制作

上司の「なんとなく」を具体化する。ふわっとした要望を仕様に落とす技術

「もう少し、今っぽくならないかな」
「全体的に、シュッとさせてほしい」
「競合のA社みたいな感じで、あとは任せるよ」

会議室で上司や経営者から放たれる、この「ふんわりとした言葉」。Web担当者やプロジェクトリーダーにとって、これほど厄介で、胃の痛くなるものはありません。この言葉の裏にある真意を汲み取れぬまま制作会社に「シュッとした感じで」と伝言ゲームをしてしまえば、待っているのは悲劇です。上がってきたデザインを見て「全然違う」と却下され、修正費用がかさみ、納期は遅れ、現場は疲弊する。この「ちゃぶ台返し」の無限ループは、多くのWebプロジェクトにおける死因のトップクラスと言っても過言ではありません。

しかし、嘆いてばかりもいられません。ビジネスにおけるWeb制作では、この「抽象的な要望(右脳的なイメージ)」を「具体的な仕様(左脳的なロジック)」に翻訳する技術こそが、プロジェクトマネジメントの要となります。今回は、上司の頭の中にある「なんとなく」を、制作会社が迷わず実装できる「仕様書」へと落とし込むための、具体的なヒアリング技術と要件定義のプロセスについて解説します。

なぜ「なんとなく」は事故を招くのか

そもそも、なぜ上司の要望は抽象的になりがちなのでしょうか。それは、彼らが「Webの専門家ではない」からです。彼らは経営や事業のプロですが、デザイン言語やシステム要件の語彙を持っていません。頭の中にぼんやりとした「理想の状態」はあるものの、それを表現する言葉が「今っぽい」「シュッと」という感覚的な表現にならざるを得ないのです。

問題なのは、上司が抽象的であることではありません。それを受け取る側が、その言葉を「そのまま」受け取ってしまうことにあります。「シュッとした」という言葉一つとっても、ある人は「余白を多用したミニマルなデザイン(Appleのような)」を想像し、ある人は「アニメーションが多用された未来的なデザイン(SF映画のような)」を想像します。この「解釈のズレ」を放置したまま手を動かし始めることが、すべての失敗の始まりです。

必要なのは、言葉尻を捉えることではなく、その言葉が発せられた「背景(コンテキスト)」と「目的(ゴール)」を因数分解することです。

ステップ1:形容詞を「機能」と「数値」に変換する

抽象的な言葉(形容詞)が出てきたら、即座に「それはなぜですか?(Why)」と問いかけ、機能や数値に変換する作業を行います。これが「翻訳」の第一歩です。

「今っぽく」の正体を暴く

例えば「今っぽくしたい」と言われた場合。「今っぽく」とは何を指しているのか、掘り下げます。
「社長のおっしゃる『今っぽく』とは、スマホでの見やすさを重視するということでしょうか? それとも、動画などを使って視覚的なインパクトを強めることでしょうか?」

もし「スマホで見やすく」であれば、それは「モバイルファースト設計」「ハンバーガーメニューの採用」「指での操作性に配慮したUI」という仕様に落ちます。もし「インパクト」であれば、「ファーストビューへの動画埋め込み」「読み込み速度とのトレードオフ検討」という技術的な議論になります。形容詞を具体的なUI/UXの機能要件に置き換えることで、初めて制作会社は見積もりと設計が可能になります。

「使いやすく」をKPIで定義する

「もっと使いやすいサイトに」という要望も危険です。誰にとっての使いやすさでしょうか。
リテラシーの高い若者向けなら「情報の網羅性と検索性」かもしれませんし、高齢者向けなら「文字の大きさと電話番号の視認性」かもしれません。

ここで有効なのが、数値(KPI)による合意形成です。「使いやすくなった結果、どうなることが正解か?」を定義します。「問い合わせフォームへの到達率を現在の1.5倍にする」「ページからの離脱率を10%下げる」。このようにゴールを数値で握っておけば、デザインの良し悪しを個人の好みではなく、「その数値達成に寄与するか否か」で客観的に判断できるようになります。

もし、社内でのヒアリングや要件の整理に行き詰まっているなら、私たちCagraPROが「翻訳者」として間に入ります。経営者のふわっとした想いを、論理的なWeb戦略へと変換し、現場が動きやすい設計図を描きます。

[ >> カグラプロへのご相談はこちら ]

ステップ2:ビジュアルの「共通言語」を作る

言葉による定義には限界があります。特にデザインのトーン&マナーについては、百聞は一見にしかずです。上司の頭の中にあるイメージを引っ張り出すために、具体的な「リファレンス(参考事例)」を使います。

ベンチマークサイトの選定と「否定」の確認

「いいなと思うサイトを教えてください」と聞くだけでは不十分です。重要なのは「どこが良いと思ったか」のポイントを絞ることです。「このサイトの、この色の使い方が好き」「このサイトの、メニューの動きが好き」。部分的な好みを収集します。

さらに重要なのが「嫌いなサイト」を聞くことです。「このサイトのどこが嫌ですか?」「文字が多すぎて読む気がしない」「色が派手すぎて安っぽく見える」。実は「やりたくないこと(NG項目)」を明確にする方が、デザインの方向性は定まりやすくなります。これらをまとめた「ムードボード」や簡易的な資料を用意し、「方向性はA案(信頼感重視)とB案(先進性重視)のどちらに近いですか?」と選択肢を提示することで、上司の「なんとなく」を可視化していきます。

ステップ3:ワイヤーフレームで「骨組み」を確定させる

言葉とビジュアルイメージのすり合わせができたら、いきなりデザインに入るのではなく、必ず「ワイヤーフレーム(画面設計図)」の段階で合意を取ります。ワイヤーフレームとは、家で言う「間取り図」です。ここに色はなく、線と文字だけで構成されています。

この段階で、上司に見せるのです。「社長、デザイン(内装)を入れる前に、情報が入る場所と導線(間取り)を確認してください。ここでボタンを押すと、このページに飛びます。この順序で情報を読ませて、最後に問い合わせさせます。このロジックでよろしいですか?」

色や写真がない分、上司も「雰囲気」に騙されず、「論理」と「構造」に集中してチェックすることができます。ここで「いや、もっと製品をアピールしたい」と言われれば、ブロックの配置を変えるだけで済みます。デザインが完成してから「配置を変えて」と言われるのとでは、修正工数が天と地ほど違います。このワイヤーフレームでの合意こそが、後の「ちゃぶ台返し」を防ぐ最強の防波堤となります。

プロフェッショナルな「御用聞き」にならないために

「上司の言う通りにすること」が、必ずしも正解ではありません。上司の要望が、Webのセオリーやユーザーの利益に反している場合、それを正すのも担当者の役割です。

「社長、おっしゃる通りに派手なアニメーションを入れることは可能です。しかし、それをするとサイトの表示速度が落ち、Googleの評価が下がって検索順位が落ちるリスクがあります。それでも導入しますか? それとも、集客を優先して表示速度を取りますか?」

このように、メリットとデメリット(リスク)を提示し、経営判断を仰ぐこと。これが「仕様に落とす」という行為の最終着地点です。上司はWebのプロではありませんが、ビジネスのプロです。リスクとリターンが明確に示されれば、正しい判断を下すことができます。

「なんとなく」を放置するのは、思考停止です。それは制作会社への丸投げにつながり、最終的に質の低いサイトとして自社に返ってきます。
CagraPROは、単に言われた通りのものを作る制作会社ではありません。皆様が上司の抽象的な要望と戦う時、その横で一緒に頭をひねり、論理的な言葉と仕様に変えるサポートをします。

ふわっとした言葉を、鋭い戦略へ。
その変換プロセスこそが、Webプロジェクトの成功の鍵を握っています。

[ >> カグラプロへのお問合せはこちら ]

タイトル:上司の「なんとなく」を仕様に変える|Web担当者のための翻訳技術
ディスクリプション:上司の「シュッとした感じで」「今っぽく」といった抽象的な要望に困っていませんか?曖昧な指示を具体的な機能・数値・仕様に落とし込み、プロジェクトの迷走と手戻りを防ぐための実践的な要件定義テクニックを解説します。

著者:清宮 雄(株式会社カグラ 代表取締役) マーケティング、ブランディングおよび企業経営の領域において20年以上の実務経験を有する。国内外にてIT事業および教育事業を展開。