「もっとシュッとした感じにできないか」「赤色は私の好みじゃない」「なんかこう、グッとくるインパクトが足りない」。
Webサイトのデザイン確認会。プロジェクターに映し出されたトップページのデザイン案を前に、役員や上司から飛び交う抽象的かつ主観的なコメントの数々。担当者様にとっては、最も胃が痛くなる瞬間ではないでしょうか。
修正指示通りに直せば、次は「前のほうが良かった」と言われ、別の役員からは「青色のほうが知的に見える」と真逆の意見が出る。終わりのない「好み」のぶつけ合いにより、プロジェクトは停滞し、当初のコンセプトは跡形もなく崩れ去ります。
なぜ、こうした不毛な会議が繰り返されるのでしょうか。それは、全員が「美術品」を品評するようなスタンスでWebサイトを見ているからです。
Webデザインはアート(自己表現)ではありません。ビジネスの課題を解決するための「サイエンス(機能)」です。会議の場において、主観という名の「ノイズ」を排除し、ビジネス目線という「共通言語」を取り戻すこと。これこそが、プロジェクトを成功に導くための必須スキルです。
今回は、デザインの好みで揉める会議を終わらせ、論理的な意思決定へと導くための具体的なファシリテーション技術を、CagraPROの現場の知見から解説します。
「好き・嫌い」という言葉を会議室から追放する
まず最初に行うべきは、議論の土俵を変えることです。「好きか嫌いか」という問いかけは、その時点で相手の「個人の趣味嗜好」を引き出してしまいます。これを封じるためのルール作りが必要です。
判断基準は「ターゲットに響くか」のみ
会議の冒頭で、必ず以下の前提を共有してください。
「今日のデザイン確認は、私たち(売り手)が好きかどうかではなく、ターゲットである顧客(買い手)がどう感じるか、という視点でのみジャッジをお願いします」
例えば、ターゲットが「保守的な製造業の50代部長」である場合、ITベンチャーのような「ポップで最先端なデザイン」は、いくら社長の好みであってもビジネス的には「不正解」です。
逆に、ターゲットが「20代の美容師」であれば、役員が眉をひそめるような「尖ったデザイン」こそが「正解」になります。
主語を「私(I)」から「彼ら(They/Customers)」に強制的に変換させること。これだけで、個人的な好みを振りかざすことへの心理的なハードルを上げることができます。
「ペルソナ」という架空の審判員
ターゲット像をより具体化した「ペルソナ(架空の顧客像)」を会議室に同席させるのも効果的です。
「田中さん(50歳、慎重派、老眼気味)がこのサイトを見たとき、文字が小さくて読みづらいと感じて離脱しないでしょうか?」
このように具体的な人物像を引き合いに出せば、上司も「俺は文字が小さい方がおしゃれだと思うが、田中さんなら確かに読めないかもしれない」と、客観的な視点を持つことができます。
「空席」を用意し、そこに顧客が座っていると仮定して議論を進める。このテクニックは、デザイン会議の空気を劇的に変えます。
抽象的な「感覚言葉」を「機能」に翻訳する
上司の「なんとなく」というコメントをそのまま受け取ってはいけません。その裏にある「懸念」や「意図」を言語化し、機能としての議論に落とし込むのが担当者の役割です。
「寂しい」と言われたら「余白」の意図を語る
よくあるのが、余白を活かした洗練されたデザインに対し、「なんか寂しいね。もっと情報を詰め込めない?」という指摘です。
ここで「これは今風のデザインです」と反論しても火に油です。論理で返します。
「この余白は、あえて情報を絞ることで、最も見てほしい『お問い合わせボタン』を目立たせるための視線誘導(機能)です。ここを埋めてしまうと、ユーザーの目が散ってしまい、CV率が下がりますが、それでも埋めますか?」
このように、「デザイン=見た目」ではなく「デザイン=機能・数値」として説明されると、経営者は「数字が下がるのは困る」と判断し、論理的な提案を受け入れざるを得なくなります。
「インパクトが欲しい」の正体を探る
「インパクト」という言葉は危険です。派手なアニメーションを求めているのか、キャッチコピーを大きくしたいのか、色が地味だと感じているのか。
この場合、A/Bテストの視点を持ち込みます。
「インパクト重視で画像を大きくしたパターンAと、信頼感重視で実績数値を強調したパターンBがあります。御社の競合他社はAのパターンが多いので、あえてBで差別化を図るのが戦略的ですが、いかがでしょうか」
比較対象と戦略的意図をセットで提示することで、「なんとなくこっち」ではなく「戦略としてこっち」という選び方をさせます。
ここで少し想像してみてください。次回の会議で、また「赤がいい」「青がいい」という議論になりそうな予感がしていませんか?
もし、社内の力関係で論理的な説明が難しい場合は、私たちのような外部の専門家を「緩衝材」として使ってください。「プロのデザイナーとしての見解はこうです」という第三者の意見は、社内の人間関係を傷つけずに議論を修正する強力な武器になります。
■H2:デザインシステムという「法」を整備する
個人の好みが介入する余地をなくす究極の方法は、事前にルール(デザインシステム)を決めてしまうことです。これは法律のようなもので、一度制定されれば社長であっても従う必要があります。
■H3:ブランドカラーとフォントの規定
プロジェクトの初期段階で、「なぜこの青色を使うのか」「なぜこのフォントなのか」を定義します。
「この青は、御社のロゴカラーであり、『知性』と『誠実』を表す色として色彩心理学的にもBtoBに適しています。したがって、サイト全体はこの色を基調とし、個人的な好みでの色変更は行いません」
この合意形成を最初にとっておけば、後から「ピンクを入れたい」と言われても、「ブランド規定(ルール)により推奨されません」と却下できます。
■H3:Web標準とアクセシビリティ
「Googleが推奨するモバイルフレンドリーなボタンサイズは44px以上です」「文字のコントラスト比は4.5:1以上でないと視認性が確保できません」。
これらは好みではなく、Webの世界における「工業規格(JIS規格のようなもの)」です。
「上司の好みで文字を薄いグレーにしたい」と言われても、「それではWeb標準のアクセシビリティ基準を満たさず、Googleの評価も下がり、検索順位に悪影響が出ます」と言えば、誰も反論できません。
客観的なデータやガイドラインを盾にすることで、不毛な修正指示をシャットアウトできます。
■H2:CagraPRO流:デザインは「答え合わせ」である
私たちCagraPROが提案するデザインには、すべて「理由」があります。なぜここの余白が30pxなのか、なぜ写真が右側にあるのか。そのすべてが、ユーザーの視線移動と心理変容を計算した結果です。
■H3:3案出すなら、3つの「戦略」を提示する
私たちは、単に色違いの3案を出すようなことはしません。
「信頼性を最大化する保守的案」「先進性をアピールする攻めの案」「その中間のバランス案」のように、それぞれに異なる戦略的意図を持たせた案を提示します。
これにより、議論は「どのデザインが好きか」ではなく、「どの戦略で戦うか」という経営判断の場になります。デザイン選びを、経営戦略の選択へと昇華させるのです。
■H3:デザイナーを「オペレーター」にしない
会議で出た意見をその場で反映させようとして、「ここを今すぐ赤に変えてみて」とデザイナーに作業させるのは厳禁です。
デザインは全体のバランスで成り立っています。一部分だけを即興で変えれば、全体の調和が崩れます。
要望は一度持ち帰り、デザイナーがプロとして咀嚼し、最適化した形で再提案する。このプロセスを守ることが、クオリティを維持する防波堤となります。
私たちは、「言われた通りに手を動かす」ことはしません。「その要望を叶えるなら、色を変えるのではなく、配置を変える方が効果的です」といった、プロとしての対案を出します。
■H2:結論:デザイン会議を「経営会議」に変えよう
デザインの好みで揉めるのは、そのWebサイトの「目的」が共有されていない証拠です。
目的が「社長を喜ばせること」なら、社長の好みに合わせればいいでしょう。しかし、目的が「売上を上げること」なら、判断基準は「売れるロジック」に基づいている必要があります。
「かっこいいサイト」ではなく「機能するサイト」を。
「好みの色」ではなく「勝てる色」を。
この視点の転換ができる担当者様こそが、プロジェクトを成功に導くキーマンです。
しかし、社内の力関係やしがらみの中で、一人で正論を通すのは骨が折れる作業です。そんな時こそ、私たちCagraPROを頼ってください。
私たちは、御社の会議室で「嫌われ役」になることを恐れません。
「社長、そのデザインでは売れません。なぜなら…」と、プロの権威と論理を持って、御社のビジネスを守るための発言をします。
感情論ではなく、ビジネスの論理でデザインを決める。そんな大人のWeb制作プロジェクトを、私たちと一緒に始めませんか。
著者:清宮 雄(株式会社カグラ 代表取締役) マーケティング、ブランディングおよび企業経営の領域において20年以上の実務経験を有する。国内外にてIT事業および教育事業を展開。