新規事業の立ち上げが決まったとき、経営者やプロジェクトリーダーの胸は高鳴ります。「業界を揺るがすようなサービスにしたい」「競合を圧倒するブランドを作りたい」。その熱量は素晴らしいものですが、Webサイト制作のフェーズに入った途端、その熱意が誤った方向へ暴走してしまうケースが後を絶ちません。
「とにかくカッコいいサイトを作ってくれ」「機能はあれもこれも全部盛り込みたい」「ページ数は最低でも30ページは必要だ」。まるで城を築くかのように、重厚長大なWebサイトの構築を計画してしまうのです。しかし、断言します。新規事業において、最初から完成された重厚なサイトは不要です。いや、むしろ「邪魔」です。
なぜなら、新規事業における最大の敵は「不確実性」だからです。まだ顧客が誰かも、商品のどのポイントが刺さるかも、あるいはビジネスモデル自体が正しいかどうかも検証されていない段階で、数ヶ月の時間と数百万円の予算をかけて巨大なサイトを作ることは、ギャンブル以下の「浪費」と言わざるを得ません。CagraPROが提唱するのは、MVP(Minimum Viable Product=実用最小限の製品)の思考を取り入れた、市場検証を最優先するWeb開発です。
完璧なサイトを目指すほど、ビジネスの成功確率は下がる
多くの企業が陥る「完璧主義の罠」についてお話しします。新規事業のために、半年かけて要件定義をし、デザインを磨き上げ、複雑なシステムを組み込んだWebサイトをリリースしたとします。しかし、蓋を開けてみれば、ユーザーの反応は冷ややか。「想定していたターゲット層と違った」「こだわって作った機能が全く使われない」「そもそもサービス自体のニーズが弱かった」。
この時点で、企業は手痛いダメージを負います。半年という貴重な時間(人件費)と、多額の制作費がサンクコスト(埋没費用)として重くのしかかるからです。さらに悪いことに、重厚に作り込みすぎたサイトは、修正するのにも膨大なコストと時間がかかります。結果、「せっかく作ったのだから」という心理が働き、間違った方向性のまま事業を続けてしまい、傷口を広げることになるのです。
ビジネスの初期フェーズにおいて重要なのは、ホームランを打つことではなく、「バットを振る回数」を増やすことです。つまり、仮説を立て、市場に出し、フィードバックを得て、修正する。このPDCAサイクルをいかに高速で回せるかが勝負です。半年かけて1回の打席に立つよりも、1ヶ月でリリースして5回修正する方が、正解に辿り着く確率は遥かに高くなります。だからこそ、Webサイトも「完璧」ではなく「検証可能」な状態でのリリースを目指すべきなのです。
MVP開発とは「手抜き」ではなく「戦略的な絞り込み」である
「最小限の開発」というと、「安っぽい、未完成のサイトを作るのか」と不安に思われる経営者様もいらっしゃいます。しかし、MVPは決して「手抜き」ではありません。むしろ、ビジネスの核となる価値(バリュープロポジション)は何なのかを極限まで考え抜く、高度な戦略的判断が求められます。
例えば、新しいBtoBサービスを立ち上げる場合、会社概要や社員紹介、複雑な会員機能がついた数十ページのサイトは本当に必要でしょうか。初期段階で必要なのは、「顧客の課題」と「解決策(自社サービス)」、そして「問い合わせフォーム」が掲載された、たった1ページのランディングページ(LP)かもしれません。
デザインはプロとして信頼に足るクオリティを担保しつつ、ページ数や機能を削ぎ落とす。これにより、制作期間を数週間〜1ヶ月程度に短縮し、コストを抑えながら、最速で市場に問うことができます。もしそのLPで反応がなければ、切り口(キャッチコピーや訴求点)を変えて作り直せばいいのです。重厚なサイトを作り直すのは地獄ですが、LP1枚の修正なら数日で済みます。これがMVP開発の真髄です。
データがない状態での議論は「妄想」に過ぎない
社内の会議室で、お偉いさんたちが集まって「ターゲットは20代女性がいいんじゃないか」「いや、シニア層にも受けるはずだ」と議論している時間は、ハッキリ言って無駄です。市場に出していない段階での意見は、すべて「妄想」や「願望」に過ぎないからです。
CagraPROが推奨するのは、「まず出して、市場に聞く」というスタンスです。MVPサイトを立ち上げ、少額のWeb広告を運用し、Googleアナリティクスやヒートマップツールでユーザーの動きを観察します。「シニア層のアクセスが多いが、直帰率が高い」「スマホからの閲覧が9割を超えている」「料金表のページで全員が離脱している」。
こうした「事実(データ)」が得られて初めて、建設的な議論が可能になります。「シニア層向けに文字を大きくしよう」「料金プランを見直そう」「スマホファーストでUIを改修しよう」。事実に基づいた改善は、確実に成果(コンバージョン)を引き寄せます。Webサイトは、完成品を展示する美術館ではなく、ビジネスの正解を見つけるための実験室であるべきです。
方向転換(ピボット)を前提とした「捨てられるサイト」を作る勇気
新規事業の9割は失敗すると言われています。あるいは、当初の計画通りに進むことはほぼありません。必ずどこかで、ターゲットの変更や、サービス内容の大幅な見直しといった「ピボット(方向転換)」が必要になります。
その時、数千万円かけた重厚なWebサイトは、足枷になります。「これだけのシステムを入れたんだから、この機能は残したい」「デザインのトーンを変えるのはもったいない」。このサンクコストへの執着が、柔軟なピボットを妨げ、事業を死に至らしめます。
私たちは、初期段階のサイトは「最悪、捨ててもいい」と思えるくらいの規模感で作ることをお勧めしています。CMS(更新システム)も、最初からフルスクラッチで開発するのではなく、WordPressなどの汎用的なものを使い、拡張性を残しておく。あるいは、最初はノーコードツールを使ってコストを極限まで下げるという選択肢も、戦略としては大いにありです。
「壊せる」ということは、裏を返せば「進化できる」ということです。ビジネスの成長に合わせて、サイトも継ぎ足し(スケール)していけばいい。最初から大聖堂を建てるのではなく、まずは頑丈なテントを張り、人が集まってきたら小屋を建て、やがてビルにする。Webサイトの成長も、ビジネスの成長曲線とリンクさせるのが最も健全な投資のあり方です。
CagraPROは「作らない」提案をする制作会社です
私たちCagraPROにご相談いただいた際、「この予算で大規模なポータルサイトを作りたい」という要望に対し、「今はまだその時期ではありません。まずはLPから始めましょう」と、予算を縮小する提案をすることがあります。制作会社としては、売上が下がる提案など本来したくありません。しかし、クライアントのビジネスを成功させることを第一義とした場合、無謀な投資を止めることもプロの責任だと考えています。
私たちが提供したいのは、「納品物」ではなく「事業の成功」です。重厚なサイトを作って満足し、集客にお金が回らなくなるよりも、制作費を抑えて浮いた予算を広告費やコンテンツ制作費(マーケティング)に回してほしい。そうやって見込み客を集め、売上が立ってから、その利益でサイトをリッチにしていけばいいのです。
私たちには、MVP開発からスタートし、クライアントの事業成長に合わせてサイトを大規模リニューアルさせ、成功を収めた実績が数多くあります。それは、私たちが「点」での制作ではなく、「線」でのパートナーシップを築いている証です。
スピードは、品質の一部である
「早かろう悪かろう」という言葉がありますが、新規事業のWeb制作においては「遅いこと」こそが「悪」です。競合他社が1ヶ月でテストマーケティングを始めている間に、半年かけてサイトを作っていては、勝負の土俵にすら立てません。
CagraPROの少数精鋭チームは、意思決定から実装までのスピードに自信を持っています。無駄な会議を省き、ビジネスのコアを即座に理解し、最短ルートで「売れるための最小構成」を形にします。デザインの細部に神は宿りますが、ビジネスの神様はスピードに宿ります。
もし今、新規事業のWebサイト構想が膨らみすぎて、見積もりの金額やスケジュールの長さに尻込みしているのであれば、一度立ち止まって考えてみてください。「本当に今、これだけのものが必要なのか?」。そして、私たちに相談してください。削ぎ落とすことで見えてくる、ビジネスの本質的な価値を一緒に見つけ出し、最速で市場への挑戦権を掴み取りましょう。
著者:清宮 雄(株式会社カグラ 代表取締役) マーケティング、ブランディングおよび企業経営の領域において20年以上の実務経験を有する。国内外にてIT事業および教育事業を展開。