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社長が「デザインが気に入らない」と言った時の説得ロジック集

Web担当者にとって、これほど胃が痛くなる瞬間はありません。

数ヶ月かけて積み上げてきたリニューアルプロジェクト。要件定義も済み、現場の確認もとり、いざ最終承認の段階で、社長や決裁者から放たれるこの一言。

「なんか、デザインが気に入らないんだよね」

具体的な修正指示ではありません。「なんか違う」「好きじゃない」「ピンとこない」。この主観的で曖昧なフィードバックは、プロジェクトを数ヶ月後退させ、制作費を追加発生させ、何より担当者の心を折る破壊力を持っています。

しかし、ここで「社長の好み」に合わせて修正してはいけません。それは、Webサイトを「ビジネスツール」から「社長の個人的な作品」へと劣化させる行為だからです。

本記事では、デザインを「好き嫌い」で語ろうとする決裁者に対し、感情論ではなくビジネスロジックで対抗し、本来あるべき「成果が出るデザイン」を守り抜くための説得術を解説します。

なぜ、社長と現場で「デザイン論争」が起きるのか

説得を試みる前に、なぜこのような食い違いが起きるのか、その根本原因を理解しておく必要があります。それは、デザインに対する「評価軸」が共有されていないからです。

多くの経営者は、無意識のうちにWebデザインを「アート(芸術)」として捉えています。アートの評価軸は「自己表現」であり、基準は「自分の感性」です。だから「好きか、嫌いか」という言葉が出てきます。

一方で、私たちプロや現場の担当者が目指しているのは「デザイン(設計)」です。デザインの評価軸は「課題解決」であり、基準は「機能するか、しないか」です。

この前提のズレを修正せずに画面を見せても、議論は平行線のままです。まずは「このWebサイトは、誰のために、何をするための道具なのか」という土俵を、社長の目の前に引き戻すことから説得は始まります。

感情論を封殺する「ターゲット視点」のロジック

社長の「好きじゃない」に対する最強の反論。それは「社長のために作っていないから」という事実です。もちろん、これをそのまま伝えては角が立ちます。以下のように変換して伝えてください。

「お客様(ターゲット)は、このデザインを好みます」

例えば、ターゲットが「20代のITエンジニア」である場合と、「60代の製造業経営者」である場合では、好まれる配色もフォントサイズも全く異なります。

社長が「もっと文字を小さくしてスタイリッシュに」と言ったとしても、ターゲットが年配層であれば「それでは文字が読めず、離脱されます」と反論できます。社長の個人の好みと、ターゲットの好みが乖離していることを論理的に示し、「私たちが合わせるべきは、財布の紐を握っている顧客です」という合意を取り付けます。

「これは競合に勝つための戦略的な配色です」

「青は地味だから、もっと派手な赤にしてほしい」といった要望に対しても、マーケティング視点で返します。

「競合他社A社もB社も、赤を使っています。ここで我々も赤にすれば埋没します。あえて青を選択することで、信頼感と差別化を演出し、選ばれる確率を高める戦略です」と伝えます。経営者は「戦略」や「差別化」という言葉に弱いです。単なる色の好みを、経営戦略の話にすり替えるのです。

機能性を盾にする「UI/UX」のロジック

見た目の美しさではなく、「使い勝手(機能)」を理由にデザインを正当化する方法です。Webサイトにおいて、デザインの変更はそのまま「売上の低下」に直結するリスクがあることを説きます。

「その修正は、問い合わせ(CV)を減らします」

社長が「お問い合わせボタンが大きすぎて下品だ。もっと小さくオシャレにして」と言った場合。これは明確に拒否すべきです。

「ボタンを小さくして目立たなくすることは、店舗で言えばレジを隠すのと同じです。見た目は良くなるかもしれませんが、お客様はどこで買えばいいか分からず、そのまま帰ってしまいます。機会損失を生まないために、この大きさと色が最適解なのです」と、売上への悪影響を具体的に示唆します。

「グローバルナビゲーションの標準仕様です」

「メニューの位置を変えたい」「ロゴを右に置きたい」といった、Webの標準(セオリー)を無視した要望に対しては、「ユーザビリティ(使いやすさ)」を根拠にします。

「ユーザーは『ロゴは左上』『メニューは上部』にあるものとして学習しています。これを崩すと、ユーザーはストレスを感じてページを閉じます。奇をてらうことよりも、ユーザーを迷わせないことを優先すべきです」と諭します。

これらを社内の人間だけで説得するのは、力関係もあり難しい場合が多いでしょう。もし、第三者のプロの立場から、社長へ論理的にデザインの意図を説明してほしい場合は、同席や資料作成のサポートも可能です。無料相談をご活用ください。[ >> CagraPROに無料相談する ]

さて、ここまでは「守り」の論理でしたが、次は社長の顔を立てつつ、プロジェクトを前に進めるための「譲歩」と「着地点」の技術について解説します。

社長の顔を立てる「賢い譲歩」と「限定的な選択肢」

論理ですべてを跳ね返しては、社長もへそを曲げてしまいます。プロジェクトを円滑に進めるためには、デザインの根幹(UXやコンバージョン導線)を守りつつ、影響の少ない範囲で社長の意見を取り入れる「ガス抜き」が必要です。

質問を「どうですか?」から「AとBどちらですか?」に変える

「どう思いますか?」というオープンクエスチョンは厳禁です。これを聞くと、社長は無限の選択肢の中から個人的な好みで語り始めます。

代わりに、プロの視点で許容できる範囲の「A案」と「B案」を用意し、「ターゲットへの訴求としてはどちらも正解ですが、社長はどちらのトーンが会社の今の気分に近いですか?」と二者択一で迫ります。
「自分で選んだ」という事実は、そのデザインへの納得感と責任感を生みます。選択肢をこちらでコントロールすることで、デザインの崩壊を防ぎつつ、社長の決定権を尊重することができます。

メインビジュアルのキャッチコピーだけは譲る

Webサイトの構造やボタン配置は譲ってはいけませんが、トップページのメインビジュアル(ヒーローイメージ)やキャッチコピーについては、社長の「想い」や「熱量」を優先しても良いポイントです。

ここは会社の顔であり、創業者の哲学が最も反映されるべき場所だからです。「社長の仰る『挑戦』というキーワードを、最も力強く表現した画像に差し替えましょう」と提案することで、「私の意見を聞いてくれた」という満足感を与えることができます。重要なのは、集客機能(身体)はプロが作り、魂(想い)は社長が入れる、という役割分担を明確にすることです。

最終手段:議論を「数字」の勝負に持ち込む

どれだけ論理を尽くしても、どうしても意見が対立して平行線になる場合。あるいは、社長が明らかに成果の出ないデザインに固執する場合。そこで感情的に戦ってはいけません。判断を「市場(ユーザー)」に委ねる提案をします。

「テスト運用(A/Bテスト)」という提案

「社長のおっしゃるデザイン案も一理あります。ただ、私の案もマーケティングデータに基づいています。社内で議論していても答えは出ないので、公開後に両方のパターンでA/Bテストを行い、数字が良い方を本採用にしませんか?」

この提案を拒否する経営者は稀です。なぜなら、経営者は誰よりも「数字(結果)」を欲しているからです。
もし社長案の数字が悪ければ、それが市場の答えです。誰も傷つかずに、データに基づいて正しいデザインに戻すことができます。逆に、もし社長案の方が数字が良ければ、それは素晴らしい発見です。どちらに転んでも会社にとってはプラスになります。

まとめ:社長も担当者も、目指すゴールは同じである

デザインの修正合戦で疲弊している時、私たちはつい「社長=敵」と見なしてしまいがちです。しかし、忘れてはならないのは、社長も担当者も「会社の売上を上げたい」「会社を良くしたい」というゴールは同じだということです。

ただ、登るべき山のルート(デザインの手法)に対する認識がズレているだけなのです。

「気に入らない」という言葉の裏には、「もっと自社の強みを伝えたい」「もっと良くしたい」という、不器用な熱意が隠れています。その熱意を否定せず、ビジネスとして正しい形(売れるデザイン)に翻訳してあげること。それこそが、Web担当者に求められる翻訳能力であり、プロの仕事です。

もし、社内の人間関係への配慮で強く言えない、あるいは論理的な資料を作る時間がないという場合は、私たちCagraPROにお声がけください。私たちは外部の専門家として、忖度なしの「ビジネスとして正しいデザイン」を、経営者の方にも納得いただける言葉でプレゼンテーションいたします。

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著者:清宮 雄(株式会社カグラ 代表取締役) マーケティング、ブランディングおよび企業経営の領域において20年以上の実務経験を有する。国内外にてIT事業および教育事業を展開。