「提案数50件保証! コンペ形式で3万円からロゴが作れます」
クラウドソーシングサイトに並ぶ、この魅力的なキャッチコピー。創業時のコストを抑えたい経営者にとって、数万円で何十案ものデザインから選べる仕組みは、魔法のように見えるかもしれません。
しかし、その「安さ」と「手軽さ」の裏側に、ビジネスを根底から揺るがす法的な時限爆弾が埋まっていることをご存じでしょうか。
Web制作の現場にいると、この爆弾が爆発した瞬間に立ち会うことが少なくありません。
「商標登録をしようとしたら拒絶された」
「ある日突然、他社から著作権侵害で警告書が届いた」
「看板も名刺もWebサイトも、すべて作り直しになった」
これらはすべて、クラウドソーシングで作ったロゴで実際に起きているトラブルです。
本記事では、顔の見えない不特定多数のデザイナーに自社の「顔」を発注するリスクと、商標権・著作権を取り巻く構造的な欠陥について解説します。安易な発注が、結果として最も高い買い物になる理由を、経営視点で理解してください。
「パクリ」と「類似」の温床になりやすい構造的欠陥
クラウドソーシングのコンペ形式は、「採用されなければ報酬ゼロ」という過酷なルールで行われます。
参加するクリエイター(中にはプロもいますが、経験の浅いアマチュアも多数含まれます)は、短時間で大量のデザインを生産しなければなりません。
この環境下で何が起こるか。
「既存のデザインの盗用(パクリ)」や「素材サイトのアイコンの流用」です。
悪意を持ってコピーする場合もありますが、無意識に過去に見た有名なロゴに似てしまうケースも多々あります。また、ネット上のフリー素材を少し加工しただけのものを「オリジナル」として提案してくるケースも後を絶ちません。
発注者である皆様は、デザインのプロではありません。提出されたロゴが、世界中のどこかにあるロゴと似ているかどうかを判定する術を持っていません。「直感的に良い」と思って選んだそのロゴが、実は他社の権利を侵害しているコピー商品だったとしても、気づかずに使い始めてしまうのです。
プラットフォームは「商標権」を保証しない
ここが最大のリスクです。多くのクラウドソーシングサイトの利用規約には、「著作権(Copyright)」の譲渡に関する記述はありますが、「商標権(Trademark)」に関する責任は回避されています。
「採用したロゴの著作権は、デザイナーからクライアントに移転します」
これは、「その絵を使う権利」は貴社に移るという意味です。しかし、「その絵を独占的に商標として登録できるか」「他社の商標権を侵害していないか」は全く別の問題です。
規約をよく読むと、「商標調査はクライアント自身の責任で行ってください」と書かれています。
つまり、納品されたロゴが原因で他社から訴えられても、プラットフォーム側は一切責任を取りません。また、デザイナー自身も個人で活動している場合が多く、損害賠償を請求しても支払い能力がないケースがほとんどです。結局、すべての法的リスクと金銭的損害は、発注した企業が負うことになります。
Google画像検索では「商標調査」にならない
「似ている画像がないか、Googleで検索したから大丈夫」
そう考える方もいますが、それは商標調査ではありません。
商標権の侵害は、「見た目が似ている(外観類似)」だけでなく、「呼び名が似ている(称呼類似)」「意味合いが似ている(観念類似)」など、複合的に判断されます。
また、特許庁のデータベース(J-PlatPat)には、画像検索ではヒットしない膨大な登録商標が存在します。これらを専門的な知見でクリアランス調査(事前調査)しない限り、安全は担保されません。
フォント(書体)のライセンス違反という落とし穴
図形部分だけでなく、社名の文字(ロゴタイプ)にもリスクがあります。
デザイナーが使用している「フォント」のライセンス問題です。
世の中にあるフォントのすべてが、商標登録可能なわけではありません。
例えば、フリーフォントや、Adobe Fontsなどのサブスクリプション型フォントの中には、「商用利用はOKだが、ロゴとして商標登録することはNG」という規約を設けているものが数多く存在します。
クラウドソーシングのデザイナーが、この複雑なライセンス規約を熟知しているとは限りません。「カッコいいから」という理由だけで、商標登録不可のフォントを使ってロゴを作成し、それを納品してしまう。
後になって弁理士から「この文字は商標登録できません」と指摘され、ロゴの作り直しを余儀なくされる。これは本当によくある話です。
プロのロゴ制作会社であれば、権利関係がクリアなフォントを使用するか、あるいは文字を一から作図(スクラッチ)して、商標登録に耐えうるオリジナルデータを作成します。ここが、2万円と20万円の決定的な違いです。
もし侵害警告を受けたら、コストは「制作費の100倍」
もし、運悪く他社の商標権を侵害してしまい、警告書(警告状)が届いたらどうなるでしょうか。
単にロゴの使用をやめれば済む話ではありません。
①Webサイトの修正、サーバー上の全画像の差し替え
②会社案内、名刺、封筒など印刷物の廃棄と刷り直し
③看板、社用車のロゴの撤去・塗り直し
④制服やノベルティグッズの廃棄
⑤場合によっては、過去の使用に対する損害賠償金
これらの対応コストは、安く見積もっても数百万円、規模によっては数千万円に達します。
当初、「3万円で安く済んだ」と喜んでいたロゴが、結果として会社に甚大な損害を与える「最も高い買い物」になってしまうのです。
ロゴは企業の「顔」。出自の確かなものを
もちろん、クラウドソーシングのすべてを否定するわけではありません。社内のちょっとしたアイコンや、短期間で使い捨てるキャンペーン用ロゴであれば、有効な選択肢でしょう。
しかし、長く使い続け、企業の顔となり、ブランドの象徴となる「コーポレートロゴ」や「サービスロゴ」に関しては、リスクが高すぎます。
ロゴ制作とは、単に綺麗な絵を描くことではありません。
「類似ロゴがないかの調査」「商標登録を見据えた権利関係のクリアランス」「永続的に使える耐久性のあるデザイン設計」。これらを含めたプロセス全体が、ロゴデザインです。
CagraPROでは、提携する弁理士と連携し、商標調査まで含めたロゴ開発をご提案することが可能です。
「たかがロゴ」と思わず、10年、20年と安心して使い続けられる資産として、正しい投資を行ってください。法的トラブルに怯えることなく、堂々とビジネスを展開するための基盤を、私たちがデザインします。
著者:清宮 雄(株式会社カグラ 代表取締役) マーケティング、ブランディングおよび企業経営の領域において20年以上の実務経験を有する。国内外にてIT事業および教育事業を展開。