ある日突然、委託先のWeb制作会社と連絡がつかなくなった。オフィスに行ってみると「倒産」の張り紙が——。
決して他人事ではありません。中小規模の制作会社や個人のフリーランスにおいて、経営破綻や夜逃げ同然の廃業は残念ながら珍しいことではないのです。この時、経営者様が真っ先に心配すべきは、前払いした着手金のことではありません。御社のWebサイト、メール、そして顧客データを支えている「ドメイン」と「サーバー」の存続です。
対応を一歩間違えれば、明日にもサイトが閲覧不能になり、メールが不通になり、長年積み上げたドメインの評価もゼロになる「デジタル資産の全損」を招きます。今回は、制作会社が倒産した際に直面するリスクと、ドメイン・サーバーを取り戻すための緊急対応フローについて、Webのプロフェッショナルとして冷静に解説します。
最悪のシナリオは「料金未払い」によるデータ削除
まず、状況を整理しましょう。制作会社が倒産したからといって、すぐにサーバーが止まるわけではありません。しかし、時限爆弾のスイッチは既に押されています。
多くの制作会社は、クライアントからサーバー代・ドメイン代を徴収し、それをまとめてサーバー会社(Xserverやさくらインターネットなど)やドメイン管理会社(お名前.comなど)に支払っています(再販契約)。
制作会社の口座が凍結されれば、当然、サーバー会社への支払いが滞ります。利用規約に基づき、支払いが止まってから数週間〜1ヶ月程度でサーバーのアカウントは停止され、その後、データは完全に削除されます。一度削除されたデータは、二度と戻ってきません。
まずは「契約形態」の確認が生存の分かれ道
パニックになる前に、契約書や過去の請求書を確認し、現状が以下のどちらのパターンであるかを特定してください。
パターンA:自社契約(ID共有型)
御社がクレジットカードや銀行振込で、直接サーバー会社やドメイン会社に支払っている場合。あるいは、契約の名義は御社で、制作会社にはログインIDとパスワードを教えていただけの場合。
このケースは「安全」です。制作会社が倒産しても、契約の主導権は御社にあります。
直ちに行うべきは、サーバーとドメイン管理画面の「パスワード変更」です。倒産した会社の元社員などが悪意を持って操作するリスクを防ぐため、アクセス権を遮断してください。
パターンB:制作会社契約(再販・管理代行型)
御社は制作会社に「保守管理費」として毎月支払い、制作会社が代行して契約している場合。
このケースが「危険」です。サーバー会社にとっての顧客は御社ではなく「倒産した制作会社」です。個人情報保護と契約の観点から、第三者である御社からの問い合わせには「契約者以外には答えられない」と門前払いを食らうのが通例です。ここからのリカバリーには、法的な知識と迅速な行動が必要です。
ドメインとサーバーを救出する緊急対応フロー
パターンB(制作会社名義)の場合、どのようにして権利を取り戻せばよいのでしょうか。
1. 「破産管財人(弁護士)」への接触
法的に倒産手続きが進んでいる場合、裁判所によって「破産管財人」が選任されます。管財人の役割は、倒産した会社の資産を整理し、債権者に分配することです。
Webサイトやドメインもまた、価値ある「資産」の一部、あるいは「管理すべき契約」と見なされます。管財人に対して「当社は当該ドメインの真の所有者であり、利用継続のために契約の名義変更(譲渡)を希望する」旨を強く申し入れてください。管財人も、無益な混乱やデータ消失は望んでいませんので、スムーズにIDの開示や移管承認に応じるケースが多いです。
2. WHOIS情報の確認と主張
ドメインには「WHOIS(フーイズ)」という登録者情報が紐付いています。ここが「制作会社名義」になっているか、「御社名義」になっているかで難易度天と地ほど変わります。
もし「Registrant Name(登録者名)」が御社名義であれば、それを根拠にドメイン管理会社(レジストラ)に直接交渉できる可能性があります。「管理業者が倒産したが、登録者は私である」と証明書(印鑑証明や登記簿)を提出することで、管理権限を取り戻せる場合があります。
3. サーバーデータの「緊急バックアップ」
まだWebサイトが表示されているなら、FTP情報(ファイル転送用のIDなど)が手元にあるか確認してください。もし接続できるなら、今すぐに全てのデータを手元のPCにダウンロード(バックアップ)してください。
WordPressの場合は、データベースのバックアップも必須です。サーバー管理画面に入れない場合でも、WordPressの管理画面に入れるなら、プラグインを使ってデータを引っこ抜くことは可能です。とにかく「データさえ手元にあれば」、別のサーバーを契約して復旧させることができます。
もし、「FTP情報もわからない」「WordPressにも入れない」という八方塞がりの状況であれば、私たちにご相談ください。Webサイトの「表側」から可能な限りデータを抽出し、別のサーバーで再構築する緊急措置を行います。
サーバー会社への「直接交渉」は最終手段
原則として、サーバー会社は契約者以外の介入を拒みますが、近年は制作会社の倒産トラブルが増えているため、特例措置を用意している会社もあります。「利用料金の支払い証明書」や「Webサイト上の会社概要ページ」などを提示することで、一時的に支払いを代行させてもらえたり、契約譲渡を認めてくれたりするケースもゼロではありません。諦めずに問い合わせてみる価値はあります。
教訓:ドメインは「会社の命」。他人に握らせてはいけない
今回のトラブルを乗り越えたとしても、あるいはこれから制作会社を選ぶ場合でも、経営者様にはこれだけは守っていただきたい鉄則があります。
それは「ドメインとサーバーの契約だけは、必ず自社名義で行う」ことです。
制作会社に「面倒な手続きはやりますよ」と言われても、「契約と支払いは自社でやる。管理権限(ID)だけ共有する」という形をとってください。ドメインはネット上の「住所」であり、サーバーは「土地」です。建物の建設(制作)は頼んでも、土地と住所の権利書まで業者に渡してはいけません。
CagraPROは「人質」を取らない
私たちCagraPRO(カグラプロ)にも、「前の制作会社がなくなって困っている」という駆け込み寺のようなご相談が多く寄せられます。私たちは、そうしたお客様のサイト移管支援を行うと同時に、自社の契約においては「クライアント自身の契約」を推奨しています。
私たちは、ドメインやサーバーを人質に取って契約を継続させるような真似はしません。いつでも他社に乗り換えられる自由がある状態で、それでも「CagraPROに頼みたい」と言っていただける品質で勝負しています。
今まさに倒産トラブルの渦中にいる方、あるいは現在の管理体制に不安がある方。手遅れになる前に、専門家の知恵を借りてください。デジタル資産を守るための最善の手を打ちます。
著者:清宮 雄(株式会社カグラ 代表取締役) マーケティング、ブランディングおよび企業経営の領域において20年以上の実務経験を有する。国内外にてIT事業および教育事業を展開。